犬の椎間板ヘルニアのまとめ

ワンちゃんを飼われている方、特にミニチュアダックスフントを飼われている方は、この「椎間板ヘルニア」という言葉は常に気になってしまいますよね。
今回はこの椎間板ヘルニアに関することをできる限りまとめてご紹介していきたいと思います。

椎間板ヘルニアの原因

まずは椎間板ヘルニアはどうして発症してしまうのか?その原因からお話していきましょう。
飼い主様から「ミニチュアダックスフントは胴が長いから椎間板ヘルニアになりやすいのよね」とよく聞かれますが、実はこれ当たっているようで間違っているんです。
ワンちゃんの中でも特に背中の椎間板ヘルニアになりやすいミニチュアダックスフントやフレンチブルドックという犬種は、軟骨異栄養性種と言われています。

軟骨異栄養性種とは?

この軟骨異栄養性種というのは、ミニチュアダックスフントやフレンチブルドックのような特徴的な骨格を作り出すために、軟骨の遺伝子に異常のある個体から作成された犬種の事を指します。
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つまり、ミニチュアダックスフントはもともと足が短い訳ではなく、そのような特徴が出るように長い年月をかけて作られた犬種ということです。「胴が長い」のではなく、「足が短い」というのが正解です。
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その為、軟骨である椎間板がほかの犬種に比べて衝撃にも弱くなってしまっているのです。
背骨と背骨の間には椎間板が存在していますから、様々な動作で衝撃を受ける椎間板にはどうしても負担がかかりやすいです。

椎間板の構造

椎間板は中心にある髄核と言われる物質と、それを覆う繊維輪と言われるものの2重構造になっています。
軟骨異栄養性種の椎間板はこの繊維輪が破けやすく、中身の髄核が外に飛び出ることで脊椎を圧迫し、神経症状を起こしてしまうのです。
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「急に立てなくなってしまった!」という理由は、何らかの衝撃によって繊維輪が破け、中の髄核が一気に飛び出し、脊髄に強い圧迫を与えてしまうからなんです。
専門用語では、これを『ハンセンⅠ型の椎間板ヘルニア』と言います。

椎間板ヘルニアには種類があった

さて、Ⅰ型があればⅡ型もあるのでは?
と思われますよね?もちろんあります。
Ⅱ型は軟骨異栄養性種ではない犬種に対して起こる椎間板ヘルニアと言えるでしょう。
年齢を重ねるにつれ、人も犬も軟骨の形が変わることもあります。
度重なる衝撃を和らげる椎間板ですが、その刺激によって繊維輪の形が変わってきてしまいます。
この形の変化によって脊髄を圧迫してしまうのがハンセンⅡ型と言われる椎間板ヘルニアです。
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左:ハンセンⅠ型、右:ハンセンⅡ型
そのため、ハンセンⅡ型の椎間板ヘルニアはⅠ型のように急激に症状が出てくるわけではなく、緩慢に発現してくることが多くみられます。

人と犬、ヘルニアの違い

さて、ここで少しわき道にそれますが、みなさんは「どうして犬のヘルニアは足が動かなくなるのに、人間の腰のヘルニアでは歩けなくなることがないの?」と思いませんか?
人ではぎっくり腰のように痛すぎて動けなくなるということはありますが、痛みも感じなくなるほどではありませんよね?
これは4足歩行の犬と、2足歩行の人間とで、運動時にかかる椎間板への負担の場所が違うためなんです。
人は皆さんも感じたことがあるように、腰に負担が多くかかるため、腰痛といった具合に痛みなどが発生しますよね。
これは頭も含めて上半身の体重を腰が支えているので、この部位に負担が集中しやすいからなんです。
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比べて犬の場合は4本の足で生活しているため、腰の椎間板に負担が集中することがありません。
しかしながら運動時には背骨が大きく動くため、背中の中心に負担がかかりやすいんです。
こういった具合に人と犬では負担がかかる場所が違うんですね。
腰のあたりの神経は背中の中心よりも太くなく、圧迫を受けても運動に支障が出にくい場所でもあります。
それに加え背中の真ん中では神経も太く、場所によっては排便や排尿などをつかさどる神経に影響するため、下半身すべての神経の連絡が途絶えてしまうこともあるんです。
ワンちゃん達は、人に比べて椎間板ヘルニアを起こした場合のリスクが高いだけでなく、軟骨異栄養性種においてはさらに重い症状が出てしまうリスクを持っているんですね。

椎間板ヘルニアの症状は?

次は椎間板ヘルニアの症状についてお話ししましょう。
椎間板ヘルニアは圧迫の程度により症状が異なっており、5つの段階にグレード分けされています。
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上記の表のように、症状や痛みの程度で分かれており、手術を含めた治療もこの分類を参考にして進めていきます。

犬のMRI検査

また、一昔前では現実的でなかった犬におけるMRI検査も、近年では積極的に行われるようになりました。
広く普及されているレントゲン検査は骨のような固い部分ははっきりと映りますが、内臓や軟骨、神経のような柔らかい部分の詳細までは判断できません。
そのため、椎間板の異常もレントゲンでは映し出されないのです。

MRIでより確実な部位特定ができる

MRIはレントゲンでは表現しづらい軟らかい部分も画像として映し出すことが可能で、椎間板ヘルニアにおいては、どのあたりの神経が圧迫を受けているかも確実に映し出すことができます。
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MRIを持つ動物病院が増えたこともありますが、都内では動物向けのMRIとCTの検査センターが各所にでき、検査機器を備えていない病院でも検査結果をすぐに飼い主様に提示することができます。
こうしたことにより、近年では手術できる病院も増え、何よりも椎間板ヘルニアを発症しても早めに手術を行うことができ、回復する仔が格段に増えたと言えるでしょう。
というのも、重度の神経症状が見られてからその圧迫を取り除くまでの時間によって、予後が変わってくると言われているんです。
簡単にいうと、手術を早く行えれば行えるほど、圧迫されている時間が短くなるため、その後の経過も悪くなりずらいということです。

 ヘルニアの治療は?

実際の治療についてです。
椎間板ヘルニアの治療は、上記にあった症状のグレードを参考にして進められますが、『グレードの何番目だからこの治療を行う』といった風に必ずしも決まっているわけでもありません。
もちろん、グレードが低い・程度が軽い場合は内科治療といって、痛み止めや炎症を引かせるためのステロイドなどの薬剤を使った治療からスタートします。
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内科の治療は飲み薬から注射、点滴治療とありますが、痛みや反射の程度によって処方が変わってきます。
ただし神経症状がある程度進行している場合は、どの程度の圧迫が実際に起こっているかを視覚的に判断するために、MRI検査を行った上で治療法を決めていくことをおすすめしています。
これは症状がさほど強く出ていなくても検査上で圧迫がひどければ、内科治療の反応が悪くなることが予想され、早目に手術を行うことも視野に入れなければならない場合があるからです。
他にも内科治療で痛みや不完全麻痺が治まるが、度々再発してしまう場合なども飼い主様と話し合って手術へと踏み切る場合があります。

 外科治療は手術

さて、外科の治療はもちろん手術です。
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手術は圧迫の起こっている部位を目指してメスを入れていきます。そのため、どこで圧迫が起こっているかを把握しておくため、事前のMRI検査は必須です。
皮膚、筋肉をかき分けて背骨に到達した後は、背骨と椎間板を専用の器具で掘り下げ、神経を露出させます。
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ハンセンⅠ型の場合、神経の周りには飛び出してきた髄核があり、専用の器具できれいに掻きだします。
ハンセンⅡ型の場合は飛び出してきた髄核が存在しないため、骨を掘った穴が圧迫している力の逃げ道となります。
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簡単に説明するとこんな感じですが、実際の手術に関してはこちらを参考にしてください。
 胸腰椎のヘルニアの手術

手術の後は?

手術を行った後は無事に回復してくれることを祈るばかりですが、治癒率は100%と言い切れる訳ではありません。
どれだけ早く手術を行っても、圧迫により神経がひどく損傷を受けてしまった場合には、経過が思わしくないこともあります。
また、症状は急激に進行することもあり、手術前と後と比べて進行してしまっているという場合もごくまれですが見られます。
先の暗いお話が続いてしまいますが、さらに最悪なケースというものが存在します。
それは「進行性脊椎軟化症の併発」です。

 最も怖いもの

これは圧迫を強く受けた神経が壊死してしまい、その壊死が圧迫を受けた部分にとどまらず進行してしまう病気です。
壊死が病変部より頭の方に進行していくと、神経の症状は前足の不全麻痺を起こすという形で現れます。
さらに進行すると呼吸などを司る中枢にまで影響を及ぼし、生命活動が維持できなくなってしまい、死に至ることとなります。
この脊椎軟化症は、予防することも進行を抑えることも今の医学では出来ないとされており、唯一早目の外科治療が発生を未然に防げる手段の一つではと考えられています。
(ただし手術を行った後に脊椎軟化症が発症する場合もあります)
椎間板ヘルニアはこれほどまでに怖い病気と言えるでしょう。
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それでは気を取り直して、手術や内科治療を終えた後のお話に移りましょう。

 退院したら…

手術を乗り越えたらすぐに後ろ足が元通りに!という訳にはいきません。
しばらくは安静がメインとなりますが、リハビリを少しづつ始めていきましょう。
手術後のリハビリは獣医師や看護師さんが入院中に進めてくれるでしょう。
当院もそうですが、動物病院によっては鍼治療やサプリメントなども積極的に取り入れ、色々な手段で反射の回復を促していきます。
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これは人のリハビリでも言えることですが、運動機能の回復は先が見えない事が多く、1日1日で比べてしまうと良化が見られない事が多いです。
その為、飼い主様の(人の場合は患者本人ですが)気持ちがネガティブな方向に傾いてしまう事があります。

 継続は力なり!

リハビリで一番重要な事、それはリハビリの手技や回数ではなく、「継続」です。
もちろん効果的なリハビリ方法を飼い主様が覚えてもらうのも重要な事ですが、ワンちゃんがリハビリに協力的でない場合も多々あり、自宅で思うようにできないという事もあります。
リハビリを行うことで飼い主様もワンちゃんもストレスを感じてしまい、お互いにリハビリが苦に感じてきてしまいます。
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こうなると経過もさらに良くならず、中にはリハビリ自体をあきらめてしまうというご家庭も出てきてしまいます。

 オーダーメイドのリハビリを

ワンちゃんの性格や体格、症状の程度にくわえ、自宅でのリハビリ状況、例えば誰がメインに行って誰がサポートしてくれるのかなども踏まえた、ご家庭ごとのリハビリプランが重要となってくるでしょう。
例えばミニチュアダックスちゃんのように女性でも片手で持ち上げられるくらいの仔であれば、さほど肉体的な疲労は感じないでしょう。
ただしこれが20kgを超す大型犬だった場合はいかがでしょう?
日中ご自宅にいる事が多い奥様一人では、負担が大きいどころか不可能に近いです。
病院側も「体を支えて理想的なリハビリを繰り返し行ってください」とはなかなか言いづらいです。
こういった場合には、ワンちゃんが寝ながらでもできるリハビリをお伝えしたり、動物病院での鍼治療やリハビリ器具の充実した病院への通院などを提示し、少しでも飼い主様の負担を少なくして継続できる形を導き出していきます。
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リハビリの効果は1週間ごとに良化して見られる場合もあれば、3か月後に見られる場合、半年後に急によくなってくる場合など様々です。
そう考えると、やはり長く続けられる方法が一番だという事が分かりますよね。

 飼い主様同士のつながりも

椎間板ヘルニアの手術が行える動物病院だと、リハビリに通っている飼い主様も多いでしょう。
待合室ではふとした時に、そういった飼い主様同士が悩みを打ち明けたり、励まし合ったりする場面も見られます。
病気になってしまうことは良い事ではありませんが、それがきっかけで飼い主様同士がお友達になられ、支え合ったりさらに輪が広がったりすることもあります。
誰かが応援してくれると、リハビリに対する気持ちも前向きになり、回復が促される!なんてこともあるかもしれませんね。
発症する前のように元気よく散歩してもらいたい!という方向けに、ワンちゃん用の車いすも普及してきています。
リハビリを補助するコルセットの開発も年々進化しています。
こういったリハビリ器具を通じてワンちゃんの気持ちも明るくなり、反射が急激に改善する場合もあるでしょう。
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最後に

以上が犬の椎間板ヘルニアに関するまとめです。
ここまで目を通していただきありがとうございます。
この記事がどなたかの参考になれれば幸いです。
また、当院では電話やメールでの相談も受け付けております。
椎間板ヘルニアは『時間との勝負!』という場面もありますから、もしお悩みでしたら遠慮なくご相談ください。
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治療は光が丘動物病院グループへ
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