高齢で持病を持っている犬の椎間板ヘルニア
今回は先日当院に来院され、椎間板ヘルニアの手術を行った犬の1例をご紹介します。
この子は現在13歳と高齢ではありましたが、椎間板ヘルニアの手術を無事乗り越えてくれました。
しかし、実はリスクは年齢だけではなかったんです。
年齢以上のリスク
実はこの子は2年前にも椎間板ヘルニアを発症しており、当院で手術を行っている仔だったのです。
皆さんもご存じのとおり、背骨と背骨の間に椎間板があります。
ですから椎間板ヘルニアが起こる部位は1か所だけとは限らないのです。
椎間板ヘルニアは1か所とは限らない
今回発生してしまったのは、前回手術した部位の1つ頭よりの椎間板でした。
椎間板ヘルニアの手術は背骨を削る手術です。ですので、削られた背骨は多少なりとも他の骨よりも耐久性が劣ってしまいます。
まして今回は、前回削った部分と同じ背骨の別の個所を削ることになってしまいました。
より強度が落ちてしまい、手術後には取り扱いに気をつけなくてはなりません。
手術前にリスクとして考えなければならないものが1つ増えてしまいました。
それでも神経の反射はほとんどなくなっていたため、MRIの検査結果も含めて手術しか回復の見込みはありませんでした。
飼い主様にも了承して頂き手術へと踏み切っています。
手術は無事終わり、圧迫されていた物質もしっかりと取り除くことが出来ました。
無事手術は成功。だが…
しかし、ここでさらに術後に思わぬことが発見されたのです。
この子は後ろ足の反射がほとんど消えていたことに加え、自力での排尿もできない状況でした。
その為、病院のスタッフが膀胱を圧迫し、強制的に出してあげなければならなかったのです。
これは犬の椎間板ヘルニアではよくみられるケースですが、この子の場合、膀胱に尿が溜まる速度がとてつもなく早かったのです。
手術の前後は麻酔が体に及ぼす影響を少なくするためにも、点滴治療を施します。
体の中に強制的に水分が入っていくので尿が作成される速度も早まります。
ただしこの子は点滴を入れていて、さらに自分が水を飲んだ量以上に尿が出ていたのです。
通常ではありえない事だったので、急いで術前の血液検査よりもさらに詳しい精密検査を行ったところ、一種のホルモン疾患を抱えていることが疑われました。
病気は一つだけではない
身体にいくつかあるホルモンの分泌器官も衰えてくることがあります。
この子はそれが過剰に進んでいた状況で、椎間板ヘルニアの治療後にさらに内科の治療も加えなければならなくなりました。
大量の水を欲し、大量に排尿をするため、身体のミネラルバランスも崩れてしまっていました。
ミネラルバランスは崩れすぎると心臓を止めてしまうこともあるため、かなり慎重な治療と看護が数日続きました。
その後、通常の椎間板ヘルニアの入院期間のおよそ倍の時間をかけ、なんとかホルモン疾患も落ち着けることが出来、無事退院しています。
手術した部位の背骨をサポートする為にも、コルセットを身に着けリハビリに励んでいます。
ちいさな変化をみのがさないで
手術後の変化を発見した後、飼い主様に聞いたところ、家でもかなりの水を飲み排尿を繰り返していたそうです。
飼い主様は年のせいだと思い込み病気だとは思わなかったそうです。
一般検査では見つけづらい重大な病気もあります。ただし、何かしら動物の行動から異常な部分が発見されるはずです。
飼い主様は元気があるからという理由だけで問題視しないこともありますが、それが命取りにもなりかねません。
日常で見つけた小さな変化も、遠慮なくかかりつけの先生に相談してみてください。
大学病院に匹敵する獣医療の提供と飼い主様に徹底したインフォームド・コンセントしています。
大切な家族でお困りの際には、お気軽に相談ください。